北欧発ゲームが世界で占める位置
2016年に世界中の注目を集めたデンマーク・Playdeadの『Inside』や、Ubisoft新規IPの初週売上記録を更新したスウェーデン・Massive Entertainmentの『The Division』。さらに、いまだに人気の衰えないスウェーデン発の『マインクラフト』や『キャンディクラッシュ』まで、北欧発のゲームは世界の中で重要な位置を占めている。
「なぜ北欧の小さな国々から数多くのヒット作が生まれるのか?」という問いに対して私もこれまでも様々な説明を聞いてきたが、最近、Massive EntertainementのManaging Director、David Polfeldtによるスウェーデンのゲーム開発カルチャーに関する非常によくまとまった講演ビデオを見る機会があったので、ぜひご紹介したい。
講演は2013年のE3で『The Division』の発表を行った後、同様の質問攻めにあったDavidが同じ年のDICE Europeで発表したもの。彼は現在は400人を超えるかなり大きなスタジオの経営者だが、元々は「貧乏な画家」になるつもりで勉強していた芸術家で、生活のために始めたウェブデザイン、さらにはゲームスタジオでのマネジメント業が見事にハマった変わり種の経営者でもある。
厳しい自然が生んだもの
回答をまとめるにあたってDavidが取った手法は、イギリスの作家ジョン・ロンソンに習い、様々な立場の人間から広く意見を集め全体像をあぶり出すというもの。彼は忙しい中、世界中のゲーム・スタジオやパブリッシャーのデベロッパーや経営者達、またはジャーナリスト、大学の教授、社会人類学者などの識者にも電話を掛けて、以下の2つの質問をスウェーデンのゲーム業界の現状に関して投げかけた。
1つめは「現在の活況の土台となる背景はなにか?」というもので、
まずスウェーデンや近隣北欧諸国の気候は厳しいことから
- 土地を耕したり生き延びて行くにはよい道具が必要だった
- 肩書や階級などではなく本当に役立つアドバイスをくれる人を信用すべきとの態度が形成された
- 計画性を持って物事を進めることが重要視された(すぐに冬が来る!)
の3点が指摘され、現代のスウェーデンのゲーム開発もこの基本的に立脚しているとする。
道具に関しては更に「機能的である」「実用的である」ことを実直なまでに追い求めるのがスウェーデン式だそうで、この精神により生み出された(もしくは改良された)モンキーレンチやファスナー、ペースメーカーなど皆がお世話になっているスウェーデン発の優れた道具は確かにファンシーさのかけらもない。
またスウェーデン人は、自身の名を上げるというエゴを優先させるよりも、プロジェクトを成功させたい、うまくいっていないものを前に進めたいという欲求が非常に高いとの指摘もあった。
物語、HomePC、英米文化、ワークライフ・バランス
更には
- バイキングやケルト文明時代から連なる歴史あるストーリー・テリング文化
- 1990年代後半、政府主導ですべての家庭にPCを普及させる目的で「Home PC」プロジェクトが実施されたこと
- 第二次世界大戦後、アメリカやイギリスのアングロサクソン系のTVや映画を始めとする文化にどっぷり使った(海外の番組は基本的に字幕で放送される)
点も他の国にはないユニークな点かもしれない。また特にスウェーデン人以外から指摘があったとして
- ワーク・ライフ・バランス
が挙げられた。スウェーデンでは、長期にわたる夏季休暇や長期の育児休暇をとることが定着しているが、これにより雇う側も雇われる側も長期的に計画を立てることを要求される。これがマラソンに例えられることもあるゲーム開発における長期的計画の重要性とマッチしているのかもしれない。
実際、DICEやMassive、Machine Gamesなどのスタジオでは離職率が低く、スタジオ設立当時から働いている人も数多いらしい。経営側からすると熟練の技術者が居続けてくれることが、次のプロジェクト、更にその次のプロジェクトへと長期に渡る成功を支える大きな要因となってくれる。
一番のスウェーデンらしさはスウェーデンではないところ?
ビデオの後半は、「スウェーデンのスタジオが成功しているとすれば、その成功の秘訣は?」という2番めの質問に関するまとめで、上記で解説した背景を脈々と受け継ぐスウェーデンのスタジオで実践されていて、他の国のスタジオでも参考にできそうな7つの成功の秘訣がまとめられている。「どうせやるなら、ちゃんとやる」、「コツコツコツコツ」や「個人の手柄よりチームの成功」など日本人にはすんなり腑に落ちるものも多い。
またDavidは最後に、現在のスウェーデンのゲームスタジオを最もスウェーデンらしくしていることについて述べている。
「例えばMassiveではウズベクスタン、ニュージーランド、イギリスやアメリカなど合計13カ国から来た人達がスタジオの約3割を占める。他のスウェーデンのスタジオでも20から25%くらいを占めるようだ」ということで、純スウェーデンではないことがスウェーデンを最もスウェーデンらしくしているという指摘して締めくくっていた。
タイトル画像クレジット・Melker Dahlstrand/imagebank.sweden.se