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フィンテック先進国・スウェーデンのマイナンバー制度

世界で一番進んだキャッシュレス社会

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ジムも旅行会社もパン屋も現金お断り

現在、スウェーデンの日常生活で現金が活躍する場所はほとんどない。これまで現金に代わって通常店舗での支払いの中心をなしていたのはクレジットやデビットなどのカードだった。

キャッシュを扱わない店もどんどん増えてきており、現金を持っていてもバスには乗れないしパンも買えないこともある。小銭の持ち合わせがない人が多く街角での売上が減ったホームレス支援団体の雑誌も、販売人にカードリーダーを持たせることでキャッシュレス社会に対応。この国では銀行でさえキャッシュレスの店舗が多数を占める。

豊富な調達資金をバックに、スマートフォンやipadで決済のできる超小型カードリーダーを無償でばらまいたスタートアップ企業iZettleが市場を制圧するのかと思った矢先、小規模、零細店舗への支払いや個人間の決済はすべてSwishという新しいサービスが取って代わった。

 現金なし、手数料なしで瞬時に行われる個人間決済Swish

Swishは固有の携帯電話番号に結び付けられた銀行口座への振込を、スマートフォンを介して瞬時に決済できるシステムとアプリ。2012年に、主に個人の銀行口座間決済をスマートフォンで簡単かつ安全に行うことを目的に、スウェーデンの6つの主要銀行が共同で開発した新しい決済手段である。その後他の銀行も参加し、さらに個人間だけではなく企業やNGOなどの組織への決済も扱うようになり一気に普及した感じだ。

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手作りのジャムもSwishで簡単に販売できる

口座振込と異なりややこしい口座番号を使うこともなく、必要となるのは基本的に携帯電話番号と後述する国民から絶大な信頼を勝ち取っている個人認証アプリのみ。かつ、決済は瞬時に行われユーザーが払う直接の利用料はゼロ。

人口が960万人程度のスウェーデンで2016年8月末時点で470万のアカウントがあり、ランチの精算からフリマの支払いや慈善団体への寄付まで幅広い用途で使われている。

この夏は、これまでは現金や小型カードリーダーによるカード決済が主であったフェステバルの屋台などもSwishによる支払いが一気に主流になり、逆に現金を受け取ってくれる屋台はほとんどなくなってしまった。

これまでクレジットカードやPaypal、Klarna (クラーナ・スウェーデンで人気で、かなり浸透しているユニークな与信審査アルゴリズムによるeコマース決済システム)を決済手段としていた主要eコマースサイトでもSwish決済OKのところもでてきた。

信頼されている個人認証セキュリティアプリ Mobile Bank IDとパーソナルナンバー制度

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スウェーデンではおなじみのBankID アプリ

このSwishを支えているのがMobile Bank IDという個人認証のセキュリティアプリとこのセキュリティアプリを根底で支えている、日本でいうマイナンバー、こちらではパーソナルナンバーと呼ばれている個人識別番号制度だ。

スウェーデンのパーソナルナンバーの歴史は古く、早くも1947年に住民登録番号として一個人に固有の10桁の番号の使用が開始され、1966年にはコンピューターでの管理が始まっている。現在では銀行口座の開設から、病院の予約、確定申告までこのパーソナルナンバーがなければ何もできないほどだが、同時に行政やインターネットバンキングにおける高度の効率化を実現している。

すべての収入などの情報がパーソナルナンバーで管理されており、確定申告時には税徴収機関側で既に申告すべき数字を記入した必要書類が送られてくる。ほとんどの人は前出のスマートフォンで使えるMobile Bank IDといった個人認証アプリを使い承認するだけで、申告作業は5分もあれば完了する。

また、例えば、ある病院で出された処方箋もパーソナルナンバーで集中管理されたシステムに記録されるため、瞬時に全国どこの薬局でも薬のピックアップが可能となり、少し恐くなるくらいのレベルでサービスが提供されている。

マイナンバーは国が国民を管理するためのもの?それとも自らの行政を改革するツール?

透明度の高い運営を国民から要求されているスウェーデン国家がまた国民に要求する透明度の高さも、普通の日本人の感覚からすると驚きの連続である。

個々人の所得税に関する情報は、国民が自己の社会保障の権利を得たり納税の義務を果すために必要な情報でありセンシティブな情報ではないとされており、希望すればほぼ閲覧可能。最近のウェブサービスは誰かを個人名で検索すればその人の誕生日から住んでる家の写真まで瞬く間に教えてくれる。やる気さえあれば、道ですれ違った人の顔をARメガネで眺めながら、そこにその人の名前や住所、年収額や家族構成、飼っている犬の写真まで表示する程度のサービスは、スウェーデンでは現時点で既に作れてしまうのでは?と言ったらいいすぎか?

このような状況はもう当たり前でほとんどどの人がウェブサービスを便利と思って使っており、個人情報のオープン化が大きな社会問題として受け止められているようには見えない。もちろん個別に事情があれば通常はオープンとなっている個人情報を、秘匿情報とすることは可能だ。

日本ではちょうど一年程前、マイナンバーの発行が始まった頃に、政府による管理社会を嫌う人々などから「断固として受け取らない」といった批判の声が相次いだ。最近はマイナンバーが話題に上がることも少なくなったような気がするが、これが第二の「住基ネット」になるのか?、または「一枚ですべてOKのポイントカード兼用」といった本質からずれた子供だましのようなレトリックで、ポイントがずれたまま普及するのか?

さらなる透明性を求めるスウェーデンが行き着く先は?

日本から見ると進みすぎているようなスウェーデンの現状も、最先端フィンテック企業のリーダー達には、まだまだ「旧来の悪癖」に縛られているように見えるようだ。

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Klarna CEOのSebastian Siemiatkowski

今年も9月に開催されたストックホルムのスタートアップの祭典、STHLM TECH FESTのフィンテック・セッションで、先に上げたクラーナ(Klarna)のCEO、Sebastian Siemiatkowskiは「例えば現在、住宅ローンやクレジットカードの審査といった与信調査は、各金融機関が独自に行いその情報のセキュリティに関わる費用も個々の金融機関が個々に負担している。消費者への究極のメリットはよいサービスを低コストで提供すること。であれば、そのような調査こそ国レベルの中央機関が執り行い、必要な情報のみを必要となる金融機関が入手することでさらなる費用の削減とセキュリティの強化が可能だ。消費者は異なる金融機関での審査の度に膨大な資料にイチイチ記入することもなく、自分に最も低い金利で融資してくれる金融機関を効率よく見つけることができるようになるだろう」と述べている。(「セキュリティが強化される」とのコメントには、国家機関等に対する信頼度合いが透けて見える。)

キャッシュレス社会で、かつそのほぼすべてのトランザクションがパーソナルナンバーに紐付けられているということは、自分に関わるお金の流れはほぼ全てが記録されているということ。それを国家が掌握し、すべての金融機関でシェアされるという方向は『1984年』も描いた究極の管理社会。しかしその流れは、金融周りの情報に関わらず、少なくともスウェーデンでは今後も止まることはないだろう。

国や行政にありとあらゆる個人情報を管理されても、それは自分たちの生活がよくなるためという大きな信頼があれば「管理されている」のではなく、「よりよい社会のための手段を自ら創造している」と確信できるのか?日本からするとユートピアの話でもしているような現在のスウェーデンの状況が、突如としてディストピアに変わることのないよう楽観的に祈るのみである。

● スカイプ、スポティファイに続いて、世界レベルで広がる可能性のあるスウェーデン発のサービスのトップといえばこのクラーナ(Klarna)。世の中に似たようなサービスは数あれど、このレベルで成功するスタートアップでは、やはりトップの人間の信念・リーダーシップ・人物像によるところが大きい。クラーナのSebastian Siemiatkowskiも強い信念の持ち主でかつチャーミング。

● 先に市場に出回ったイングマル・ベルイマン等の新札に続き、グレタ・ガルボも登場したこの秋からのスウェーデンの新札。お目にかかりたいのにお金を使う機会がほとんどなく、当分会えそうにない。本当に残念!

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素敵なのにあまりお目にかからない新札たち

 

 

© Hiromi Blomberg 2020

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